ある日、作者のもとに、自分の作品を作り直したいという読者からメールが届いた。その小説は執筆を始めて五年間で最大の成功作だったが、作者はすでに三か月間の休載に入っていた。
執筆当初は膨大な世界設定を用意し、一話ごとに情熱を注いでいた。しかし一年ほど経つと深刻な不調に陥り、思うように文章を書けなくなる。それでも半年間は連載を続けた結果、無理に進めた物語には矛盾が増え、登場人物の性格も崩れていった。読者は減り、感想を読むことさえ怖くなった作者は、ついに休載を決める。休んでも執筆能力は戻らず、続きを一文も書けない日々が続いていた。
そんな作者のもとに、再び作り直しを求めるメールが届く。作品を公開するつもりはなく、個人的な満足のために作り直したいという。相手は、その内容が作者の創作意欲を取り戻すきっかけになるかもしれないとも伝えていた。自分の作品に強い関心を寄せる読者への感謝と、書けなくなった自分への恥ずかしさを感じながら、作者は申し出を受け入れる。
その後、作者はいつもどおり眠り、目覚めると自分が書いた小説の世界にいた。しかも主人公でも重要人物でもなく、記憶にない脇役のキム・チュンドンになっていた。チュンドンは両親のいない少年で、九歳のときに怪物や魔人と戦う人材を育てる軍事学校へ入学している。だが、どんな能力で試験に合格したのか、作者にも分からなかった。
鏡をのぞくと、顔の代わりに疑問符の付いた楕円が見えた。肌や髪の感触はあるのに、顔だけが認識できない。他の人々には普通の顔があるため、作者が外見を設定しなかったという説明も成り立たない。
最初は誰かのいたずらや夢を疑ったが、周囲は現実と変わらない感覚を伴い、その状態は二週間続いていた。作者はこの世界を現実として受け入れるべきか考えながら過ごす。ほとんど部屋に閉じこもり、元の世界へ戻る方法をインターネットで探していたものの、二日前には退学を避けるため、英雄養成学校「キューブ」の入学式に出席していた。
チュンドンのいた軍事学校では、非戦闘系の生徒はすでに卒業していた。一方、戦闘系の生徒は「キューブ」でさらに三年間学ぶ必要があり、チュンドンもその一人だった。誰が、何のために自分をこの世界へ送り込んだのかは分からない。それでも、何もせずに暮らし続けることはできないと作者は考え始める。
小説の世界で英雄は誰もが憧れる職業だった。物語は中盤以降に悪党の登場で深刻さを増すが、そこまで生き延びれば何か手がかりが見つかるかもしれない。そう考え、作者はひとまずこの世界で暮らすことを決める。
登校を知らせる目覚ましが鳴り、チュンドンは「キューブ」の制服に着替える。校舎は東海の中央に浮かび、一度向かえば今の部屋には戻れないかもしれない。二週間暮らした部屋に愛着を感じながらも、作者は扉を開ける。自分さえ知らない脇役として、見知らぬ世界での生活が始まろうとしていた。