この世界には、限界を超えた者が自分の能力を認識できるようになる「覚醒」という現象が存在する。覚醒した者は能力値や才能を客観的に把握でき、訓練の効率を高められるほか、塔やダンジョンで特別な報酬を得られる。通常、その情報は本人にしか見えないが、キム・ハジンの前にあるノートパソコンは、覚醒のための特殊な媒体として機能していた。
パソコンに表示された情報によって、ハジンは自分の状態が初期化され、キム・チュンドンから名前と容姿が変わったことを確認する。身体能力は以前より低下していたものの、能力を強化できるポイントを十獲得していた。さらに、対象の設定を変更できる「設定介入」という権限も与えられていた。
設定介入には、物語内での重要性に応じて獲得できる物語ポイントが必要となる。ハジンは、物語への関与を深めることが帰還の手掛かりになると考える。能力画面には、本編終了後に解放される謎の項目も存在していた。それが元の世界へ戻る方法につながる可能性はあるが、本編の終了時期は不明で、少なくとも長い年月が必要になる恐れがあった。
帰還を目指すには、物語の中で存在感を高め、物語ポイントを獲得しなければならない。そのためにハジンが選んだ武器は銃だった。剣や槍と異なり、銃は比較的少ない身体能力でも扱いやすい。しかも、この世界の英雄には銃を使用する者がいないため、周囲から注目される独自性も確保できる。
続いてハジンは、一度だけ高額な物語ポイントに相当する才能を無料で作成できる特典を利用する。最初に考えたのは、毎日すべての能力値が増加する才能だった。しかし、要求した成長速度は認められず、実際の効果は大幅に弱められてしまう。
そこで方針を変え、遠距離武器の扱いに特化した「射撃の達人」を作成する。パソコンによる調整で、遠距離武器全般への適性、遠くの対象を見通す視力、戦闘時に使える特殊な時間感覚が付与された。さらにハジンは、成長できない固定型よりも将来性を重視し、才能を成長型へ変更する。初期性能は低下したものの、経験を積むことで強化できる能力を手に入れた。
次にハジンが着目したのは、残された十ポイントの使い道だった。通常のポイントでは知能や忍耐力、幸運などの固定能力を強化できない。しかし、物語ポイントを使えば変更できることを実験で確認する。
ハジンは十ポイントを一万物語ポイントに交換し、幸運の強化を選択する。幸運は財宝の発見だけでなく、訓練の成果や攻撃の成功など幅広い場面に影響する重要な能力だった。一度に上限近くまで高めるより、少しずつ変更した方が効率的だと気づいたハジンは、段階的な強化と幸運による追加上昇を利用する。結果として、九千物語ポイントで幸運を九・一まで引き上げることに成功した。
残る千物語ポイントは忍耐力に投入する。厳しい訓練を乗り越えるための判断だったが、保存時に幸運が働き、忍耐力は予想以上の七・二〇七まで上昇した。
ところが直後、物語に重大な影響を与える異常が検出され、物語ポイントによる固定能力の変更が禁止されてしまう。今後も同じ方法で強化する計画は封じられたものの、すでに高い幸運と忍耐力を獲得できたハジンは満足する。
こうして能力の調整を終えたハジンは、パソコンを閉じ、自ら作り出した新しい才能を試すために立ち上がる。