授業後、トマーは女子生徒たちとカフェで過ごしていた。任務の方針を定めてから二週間、短気を抑えて周囲と付き合ってきた成果が出て、生徒や魔法使いから好意的に見られるようになっている。彼女はキム・ハジンとレイチェルの仲を話題にし、同じチームだから親しいのでは、という声に対して、ハジンがレイチェルに恋しているかのように話を膨らませた。レイチェルは卒業後、世界六十位の王宮ギルドに入り、最年少幹部になると見込まれている。ハジンも順位を三百三十四位まで上げており、ギルドにふさわしいという意見が出る。さらに、クラス対抗戦で歌うハジンが告白するのではと生徒たちは騒ぎ、告白したら刺すと口にする者までいた。トマーは、彼女たちと魔人に何の違いがあるのかと考える。
部屋に戻ったハジンは、大勢の前で歌うことを憂鬱に思う。声を改善する角笛はあるが、人前で歌った経験はない。エバンデルは自分なら歌えると言い、悪者にやられたせいで歌わねばならないというハジンの冗談を真に受けて、作りかけのナイチンゲールの首を強くひねってしまう。鳥が崩れて泣き出した彼女を、ハジンは抱き寄せて慰めた。
続いてハジンは、トマーの私物スマートウォッチに侵入する。前夜に見た端末は、キューブ支給品に似せた別物だった。八十SPを使って中の通信を調べると、水曜日の授業で任務に役立つ品を回収するよう、彼女に指示が届いていた。模擬アーティファクト争奪戦の最中、地下最下層B三区域の管理センターが午前十一時から正午まで無人になるため、その間に品を取れという。ほかの通信から、トマーの標的はレイチェルだと分かる。トマー自身は知らないまま、スパイとして動かされているようだった。
その直後、ハジンに問題の解き方を尋ねる連絡が届く。送り主はレイチェルではなくチェ・ナユンだった。図書館で計算中心の現象界分析Ⅱに苦戦していたナユンは、隣に座るレイチェルが悩んでいる様子にも気づく。質問文を何度も書き直し、ようやくハジンへ送ると、親切で詳しい解説が返ってきて顔を輝かせた。その後、イ・ヨンハンから水曜日の模擬アーティファクト争奪戦を知らせる連絡が全員に届く。
訓練当日、ヴェリタスクラスの百二十五人が地下広場に集まった。白組はアーティファクトを守り、黒組は奪う。敵の指揮系統も仲間の位置も知らされない乱戦形式で、現実の争奪戦で人間の陣形を崩した魔人ベルムートの能力を想定している。教官の魔法で生徒たちの視界が奪われ、各階へ配置されたが、ハジンには魔法が効かなかった。ナユンとレイチェルは地下三階の近くに、ハジンは地下四階の小部屋に置かれる。隣室は白組のユ・ヨンハだった。
合図の後、ハジンは最下層B三区域を目指そうとする。物音を聞いたヨンハは隣室の相手を黒組だと推測し、扉を開けた。そこにいたのがハジンだと分かると、笑顔が凍り、手を震わせて汗を浮かべる。ハジンが首筋をかこうと手を上げただけで、ヨンハは「近寄らないで」と叫んだ。自分から扉を開けて来たのに、なぜここまで恐れるのか。ハジンには理由が分からず、首をかしげる。